耐電圧試験とは?絶縁の強さを確認する仕組みと試験の進め方

電気機器の絶縁には、電流を流したくない場所へ流さない役割があります。たとえば、電源につながる回路と人が触れる金属部分は、適切に隔てられている必要があります。この隔たりが、所定の電圧に耐えられるかを確認するのが「耐電圧試験」です。

この記事では、試験条件を決めるときの考え方、測定電流の読み方、試験開始から終了までの流れを説明します。


耐電圧試験で確かめること

耐電圧試験は、絶縁で隔てられた二つの部分に規定の高電圧を一定時間かけ、絶縁破壊などの異常が起きないかを調べる試験です。「絶縁耐力試験」や「ハイポット試験」と呼ばれることもあります。

通常の使用時より厳しい電圧条件を与えることで、絶縁材料や組立状態に問題がないかを評価します。所定条件での合否を調べる試験と、電圧を上げ続けて破壊に至る値を調べる試験は、目的を区別する必要があります。耐電圧試験に合格しても、あらゆる使用条件や長期間の劣化まで保証できるわけではありません。出典:菊水電子工業「耐電圧試験/部分放電試験」

最初に決めるのは「どの絶縁を調べるか」

試験器の設定に入る前に、評価対象となる二つの部分を特定します。電源回路と外装の間、一次回路と二次回路の間など、確認したい絶縁によって試験点が変わります。

下図は、その関係だけを示した概念図です。実際の接続箇所や端子のまとめ方は、製品の構造、適用規格、承認された試験手順で決定します。

図1:試験接続の考え方。 A・Bは評価対象となる二つの部分です。LOWは試験器の戻り端子を表し、この図では保護接地との関係を省略しています。実機の接地は試験器の取扱説明書に従います。

試験点を誤ると、予定していた絶縁に電圧がかからなかったり、電子部品に想定外のストレスを与えたりします。「試験器が合格を表示した」という結果だけでなく、意図した二点間を正しく評価できていることが大切です。

絶縁抵抗試験とは、何が違う?

どちらも絶縁を評価しますが、確認する内容が異なります。

比較する項目 耐電圧試験 絶縁抵抗試験
主な問い 所定の高電圧に耐えられるか 所定の条件で電流がどれだけ流れにくいか
主な結果 規定条件に対する合否 抵抗値と、その基準に対する合否
電圧の種類 対象の要求に応じて交流または直流 一般に直流
読み取る際の注意 測定電流には容量成分の影響もある 印加直後は充電などの影響を受ける

絶縁抵抗測定では、印加電圧と測定電流から抵抗値を求めます。容量を持つ対象では測定開始直後の値が安定しない場合があるため、読み取りの時点にも意味があります。抵抗値が高いという結果だけで、別途要求される耐電圧試験を省略できるとは限りません。出典:HIOKI「Measurement Procedures」

交流と直流では、測定電流の見方が変わる

交流試験:容量を通る電流も含まれる

交流では、絶縁抵抗を通る成分だけでなく、機器が持つ静電容量を通る成分も測定電流に含まれます。ノイズ対策用のコンデンサなどがあると、絶縁破壊がなくても電流が流れます。

理想的なコンデンサ単体に正弦波電圧を加えた場合、電流の実効値は I = 2πfCV です。fは周波数、Cは静電容量、Vは電圧の実効値です。同じ容量でも、電圧や周波数が変われば電流は変わります。この式は容量成分を理解するためのもので、製品全体の判定値をそのまま決める式ではありません。出典:菊水電子工業「耐電圧試験/部分放電試験」

直流試験:昇圧中の充電と、終了後の放電に着目する

直流では、電圧を上げるときに容量成分を充電する電流が流れます。理想的な容量の充電電流は I = C × dV/dt で表されるため、電圧を上げる速さも測定に影響します。保持中の電流と、昇圧中の電流は分けて考えます。

また、試験器が出力を止めても、対象に電荷が残る場合があります。放電機能がある機器でも、その能力や必要時間は対象の容量などによって変わります。終了表示だけで安全と判断せず、所定の放電と残留電圧の確認までを試験の一部として扱います。出典:HIOKI「Speed Discharge」

交流から直流への変更は、単なる設定の置き換えではありません。代替を認める規格もありますが、条件は一律ではなく、直流試験が要求される対象もあります。対象製品に適用される要求を確認して選びます。出典:菊水電子工業「交流耐電圧試験と直流耐電圧試験の使い分け」

試験は「条件設定・印加・終了確認」の順に進める

以下は試験の全体像です。高電圧を扱うため、実作業は教育を受けた担当者が、対象に適合する試験器と安全設備を使い、承認された手順に従って行います。

1.対象と条件を文書でそろえる

製品型式、試験箇所、適用規格と版、試験目的を確認します。そのうえで、電圧、交流・直流の別、交流周波数、保持時間、昇圧・降圧条件、判定基準を定めます。具体的な値を、別製品の事例から流用しないことが重要です。

2.安全設備と接続を確認する

試験器の出力が停止している状態で、試験対象の電源状態、リードや治具、接地、接続箇所を手順どおり確認します。安全囲い、インターロック、非常停止などの保護手段も確認し、人が高電圧部分へ近づけない状態を整えます。

3.所定の条件で電圧を加える

設定したプロファイルに従って昇圧し、試験電圧を保持します。試験中は対象やリードに触れず、電圧、電流、判定結果を監視します。異常が出た場合は安全に停止し、原因を確認する前に条件を緩めて再開しないようにします。

図2:試験プロファイルの一例。 縦軸は試験電圧の大きさです。交流の場合は実効値の設定を表し、瞬時の交流波形ではありません。時間や傾きは模式的なもので、設定値を指定する図ではありません。

4.出力停止後、放電と安全確認を行う

試験終了後は、使用機器の手順に従って出力を停止し、必要な放電を行います。所定の方法で残留電圧が安全な状態になったことを確認してから、接続を取り外します。自動放電機能の有無だけでなく、対応する負荷条件も確認します。出典:菊水電子工業「TOS5403」放電機能の仕様

5.合否と、判断に使った条件を残す

製品の識別情報、試験箇所、設定値、測定結果、試験器の識別情報、実施日時、担当者を記録します。異常が出た場合は、発生した段階や波形なども残すと、製品側と試験系の問題を切り分ける材料になります。電圧・電流を時系列で記録できる試験器もあります。出典:HIOKI「DC HIPOT TESTER ST5680A」

判定で避けたい三つの思い込み

**「電流が出たから絶縁破壊」**とは限りません。交流の容量電流や直流の充電電流を含め、どの段階で何を測定しているかを確認します。

**「不合格なので電流上限を上げればよい」**という判断も適切ではありません。試験条件との整合、接続状態、対象の状態を確認し、承認された基準に戻って原因を調べます。

**「合格なら絶縁に関する評価はすべて完了」**ともいえません。対象によっては絶縁抵抗、保護導通、漏れ電流、部分放電など別の評価が必要です。必要な試験の組合せは、対象の要求に従います。出典:HIOKI「Electrical Safety Testers」

耐電圧試験は、条件と結果をセットで読む

耐電圧試験の結果を理解するには、「どの二点間に」「どの電圧を」「どれだけの時間」「どの基準で」加えたかを押さえる必要があります。接続から終了後の放電までを一続きの工程として管理することで、試験結果を品質判断に使いやすくなります。


※この記事は一般的な仕組みの解説であり、個別製品の試験仕様書ではありません。

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