電線や電気機器には、電流が本来の経路から外へ流れないようにする「絶縁」が必要です。電線の被覆や機器内部の絶縁材料がその役割を担っていますが、湿気や汚れ、熱、傷などの影響で、絶縁の状態は変化します。
その状態を抵抗値で調べるのが、絶縁抵抗試験です。この記事では、初めて学ぶ方に向けて、測定器が何を調べているのか、どこを測るのか、結果をどう判断するのかを順に説明します。
ここで扱うのは、主に電気機器や低圧電路の絶縁抵抗試験です。「絶縁試験」には耐電圧試験なども含まれますが、それぞれ確認する内容が異なります。
絶縁抵抗試験は「電流の流れにくさ」を調べる試験
絶縁抵抗試験では、絶縁で隔てられている二つの部分に直流電圧をかけ、その間に流れる小さな電流から抵抗値を求めます。測定には、一般に「メガー」とも呼ばれる絶縁抵抗計を使います。
抵抗値が大きいほど、その測定条件では電流が流れにくいことを意味します。単位にはMΩ(メガオーム)やGΩ(ギガオーム)を使い、1 MΩは100万Ω、1 GΩは1,000 MΩです。
絶縁抵抗は、新設時の確認だけでなく、定期点検で状態の変化を調べるためにも使われます。同じ対象を同じ条件で測り続けると、急な低下などを見つけやすくなります。参考:共立電気計器「絶縁抵抗計ガイドブック」
抵抗値は、電圧と電流から求められる
基本になるのは、オームの法則です。
絶縁抵抗 R[MΩ]= 印加電圧 V[V]÷ 測定電流 I[μA]
たとえば、250 Vをかけたときの電流が5 μAなら、計算上の抵抗値は250÷5=50 MΩです。同じ250 Vで電流が25 μAなら10 MΩとなり、電流が多く流れるほど抵抗値は小さくなります。これらは計算の例であり、測定電圧や合否基準を指定するものではありません。
測定開始直後の電流には、対象が持つ容量を充電する電流なども含まれます。このため、表示が落ち着くまでの挙動や、規定された読み取り時間にも注意が必要です。参考:HIOKI「3452 取扱説明書」第2章
どこを測る?二つの基本的な測定箇所
絶縁抵抗は、測定器を当てた二点間の値です。調べたい絶縁に応じて、測定箇所を決めます。
電路と大地の間
電路から接地側へ電流が流れにくいかを確認します。機器であれば、充電部と接地された金属外装の間などが対象になります。ただし、外装の構造や接地方式によって接続は異なります。
電線と電線の間
本来は絶縁されている電線同士の間を確認します。負荷機器が接続されたままだと、機器内部の回路を通る電流まで測定に含まれる場合があります。何を接続した状態で測るかは、試験対象と手順に合わせて決めます。

図の見方: 色のついた線は、調べる二点を表しています。実作業用の配線図ではなく、開閉器や保護装置、接続機器は省略しています。低圧電路の測定箇所と回路を分けた調査については、共立電気計器の測定解説も参考になります。
測定電圧は、対象に合わせて選ぶ
絶縁抵抗計には、機種によって50 V、125 V、250 V、500 V、1,000 Vなどの測定電圧があります。高い電圧で測れば、どの機器にも適した検査になるわけではありません。
確認するのは、測定対象の取扱説明書、適用される規格、設備の点検手順です。電子回路や半導体部品が接続されている場合には、測定電圧で部品を傷める可能性があります。電圧を下げるだけでよいと考えず、測定の可否や切り離す箇所まで確認します。
ここでいう「測定電圧」は、絶縁抵抗計が試験のために出力する直流電圧です。設備が通常使っている「使用電圧」とは別の値なので、混同しないようにしましょう。参考:HIOKI「絶縁抵抗の測定」
絶縁抵抗試験の基本的な流れ
測定は、対象の状態を確認してから始め、測定後の放電までを一連の作業として行います。以下は一般的な流れです。実作業は必要な知識・教育を持つ担当者が、対象と測定器に適した手順に従って行ってください。

1.測定する範囲と判定基準を確認する
どの回路・機器の、どの二点間を測るのかを明確にします。測定電圧、読み取り時間、判定基準も先に決めておきます。複数の機器をまとめて測るのか、個別に測るのかによって、値の意味は変わります。
2.電源を遮断し、無電圧を確認する
通常の絶縁抵抗測定は、対象の使用を停止して行います。電源を切るだけでなく、再投入を防止し、適切な方法で無電圧を確認します。別系統の電源や蓄電部がある設備では、その影響も確認します。通電中の回路へ、そのまま絶縁抵抗測定を行うことはできません。
3.接続と測定条件を整える
測定器とリードの状態を点検し、出力を開始していない状態で対象へ接続します。機器の切り離しやスイッチの状態などは、対象の指定に従います。測定点を誤ると、調べたい絶縁に電圧がかからず、正しい結果になりません。
4.測定し、決められた時点の値を読む
所定の電圧で測定し、指定された時間や読み取り条件に従って抵抗値を確認します。測定中は、端子、リード先端、測定対象に触れません。表示が変化する場合は、最初に出た数値だけで判断せず、測定時間も含めて記録します。
5.測定を止め、放電を確認する
ケーブルや機器に電荷が残る場合があります。自動放電機能を使う機器では、取扱説明書に従って接続を維持したまま出力を止め、放電完了を確認します。安全な状態になったことを確認してからリードを外します。参考:共立電気計器「KEW6022/6023 取扱説明書」
6.条件と結果を記録し、復旧を確認する
対象名、測定箇所、測定電圧、抵抗値、測定時間、日時を残します。継続して比較する場合には、温度や湿度などの条件も記録すると役立ちます。切り離した機器や変更した接続は、設備の復旧手順に従って確認します。
基準値は何MΩ?低圧電路の例
日本の電気使用場所における低圧電路では、「電気設備に関する技術基準を定める省令」第58条に、次の絶縁抵抗値が示されています。対象は、開閉器または過電流遮断器で区切ることのできる電路ごとの、電線相互間および電路と大地の間です。
| 電路の使用電圧 | 区分 | 絶縁抵抗値 |
|---|---|---|
| 300 V以下 | 対地電圧が150 V以下 | 0.1 MΩ以上 |
| 300 V以下 | 上記以外 | 0.2 MΩ以上 |
| 300 Vを超える低圧電路 | — | 0.4 MΩ以上 |
ここでの対地電圧は、接地式電路では電線と大地の間、非接地式電路では電線間の電圧を指します。表の区分に使うのは、絶縁抵抗計の測定電圧ではありません。出典:関東東北産業保安監督部「令和7年度 電気保安資料」省令第58条の掲載箇所
この表を、あらゆる電気製品や部品の合否基準として使うことはできません。 製品の規格や検査仕様には、別の測定電圧・時間・抵抗値が定められている場合があります。対象に適用される要求を確認してください。法令本文はe-Gov法令検索で確認できます。
たとえば、対象が「使用電圧300 V以下・対地電圧150 V以下」の区分に該当する場合、0.08 MΩは表の0.1 MΩを下回ります。一方、基準以上であっても、以前より急激に低下していれば、その理由を調べることが大切です。
数値を見るときに気をつけたいこと
「∞」や「測定範囲超え」は、無限大の証明ではない
絶縁抵抗が測定器の上限を超えると、「>○○ MΩ」などと表示される機種があります。これは、表示される値より大きいことを示すもので、正確な抵抗値が分かったわけではありません。参考:共立電気計器「測定範囲を超えた表示について」
また、リードが対象に接触していない場合も、回路が開放されて高い値になることがあります。数値だけで安心せず、接続できていることを確かめます。接触不良を検出する機能を備えた試験器もあります。参考:HIOKI「絶縁抵抗試験器 ST5520」技術資料
低い値が出たら、回路を分けて原因を調べる
複数の機器や分岐をまとめて測ると、それぞれの電流経路が測定値に影響します。同じ二点間に10 MΩの抵抗が二つ並列にあるモデルなら、合成抵抗は5 MΩです。
全体の値が低いときは、安全を確保したうえで、承認された手順に従って回路や機器を分けて調べます。配線の損傷だけでなく、湿気、汚れ、接続機器の影響も確認することで、原因を絞り込みやすくなります。
耐電圧試験との違い
絶縁抵抗試験と耐電圧試験は、どちらも絶縁を評価しますが、着目する点が異なります。
| 比較項目 | 絶縁抵抗試験 | 耐電圧試験 |
|---|---|---|
| 主に確かめること | 指定した条件での電流の流れにくさ | 指定した高電圧に耐えられるか |
| 主な結果 | 抵抗値と、その基準に対する合否 | 規定条件で絶縁破壊などがないかの合否 |
| 使用する電圧 | 一般に直流 | 要求に応じて交流または直流 |
| 主な測定器 | 絶縁抵抗計・絶縁抵抗試験器 | 耐電圧試験器 |
絶縁抵抗が高いという結果だけで、要求されている耐電圧試験を置き換えることはできません。それぞれの目的に応じて、必要な試験を行います。参考:菊水電子工業「耐電圧試験/部分放電試験」
測定条件とセットで記録すると、結果を生かしやすい
絶縁抵抗試験で大切なのは、抵抗値だけで判断しないことです。「どこを測ったか」「何Vで測ったか」「いつ値を読んだか」をそろえることで、基準との比較や過去の結果との比較に意味が生まれます。
対象に適した測定条件を選び、無電圧の確認から測定後の放電までを確実に行う。そのうえで数値の変化を追うことが、絶縁状態を把握する基本です。

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